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第三話 ガン細胞は毎日生まれている
  我々の体内では正常な細胞が活性酸素などによって傷つけられ、毎日百万個くらいのガン細胞が発生している。しかし、これらの生まれたてのガン細胞はガンになる前にほとんど免疫の働きで殺されてしまい、ガンにはならない。
 この免疫パワーを担っているのが、血液の中の白血球である。白血球は顆粒球、リンパ球、マクロファージの3種類の細胞で構成されている。顆粒球(白血球の60%)は細胞の死骸や大腸菌などの大型の異物を食べて処理し、リンパ球(35%)はガン細胞やウィ−ルスなどの微小異物を抗体で攻撃し、マクロファージュ(5%)は大型異物や老廃物を食べたり、異物の侵入をリンパ球などに知らせたりする。リンパ球には体内で異常化したガン細胞などを殺すNK細胞とNKT細胞、体外から侵入したウィールスや細菌を抗原抗体反応でやっつけるT細胞とB細胞があり、免疫という自己防衛システムの中心的役割を果たしている。普通、健康な人ではこのリンパ球が白血球の35%を占めているが、ほとんどのガン患者のリンパ球は30%を下回っている。
 ところが、新潟大学の安保徹教授の臨床経験によれば、ガン患者のリンパ球が増え、30%を越えるとガンの自然退縮が起こり、ガンが治癒してしまうのだ。したがって、リンパ球の数を増やせば、ガンの予防にも治療にも役立つという訳である。では一体リンパ球の数値を上げることは可能なのか。リンパ球の数値を支配しているものは何であろうか。

白血球は自律神経によって支配されている

 身体を病気から守っている白血球の数と働きは自律神経によって調整されている。自律神経には交感神経と副交感神経がある。
 交感神経は主に運動時や活動時、特に怒って興奮した時などに活発に働く。アドレナリンの分泌で心臓の拍動を強め、血管を収縮させて血圧を高め、消化器の働きを止め、身体を活発な活動や外敵との闘いに備える体調に整える。
 一方、副交感神経は休息時や食事時に優位になり、アセチルコリンの分泌で心臓の拍動を緩やかにし、血管を拡張して血流を良くし、身体を食事や休息に適した体調に整える。
 怪我やストレスなどで交感神経が優位になると顆粒球が増加し、休息などで副交感神経が優位になるとリンパ球が増える。
 顆粒球は二、三日で寿命を終えるが、その時活性酸素を放出する。体内にはこの活性酸素を無害にする仕組みがあるが、顆粒球が増え過ぎて放出された活性酸素が処理しきれなくなると、余分な活性酸素が健康な細胞を傷つけ、炎症、潰瘍、ガンなどを引き起こす。 
 十分な休養をとり、愉快な気分でいればリンパ球が増え、免疫パワーが強化されガンなどの病気に罹り難くなる。

手術、抗ガン剤、放射線は免疫力を弱める

 安保教授は免疫学の立場から、ガンの三大療法、すなはち手術、抗ガン剤、放射線によるガン治療に疑問を投げかけている。これらの療法はいずれもガンを自然退縮に導く免疫力を抑制してしまうからである。安保氏の三大療法反対の理由は次の通りである。
 大手術で身体を傷つけると、交感神経が激しく刺激されて顆粒球が激増し、免疫力が抑制される。もともと顆粒球が多すぎてガンを発症したのに、さらに顆粒球を急増させるような手術をすれば全身に免疫抑制が起こる。早期に発見され、転移もなく、小手術で取り除ければ、手術もよいが、大手術は避けるべきである。
 放射線治療も手術と同様周囲の正常組織を壊し、交感神経を刺激し、顆粒球を急増させ、全身に免疫抑制を起こしてしまう。
 抗ガン剤治療は細胞の分裂、再生を阻害し、ガンを縮小させようという治療である。しかし、抗ガン剤はガン細胞だけでなく、全身の再生組織の細胞分裂も阻害し、深刻な副作用をもたらす。また、リンパ球も被害を受け、免疫力は急激に下がってしまう。白血病や小児ガンなどはっきりと抗ガン剤の効くことが判っている場合には使っても良いが、この場合でも、体力、自然治癒力は大幅に低下する。
 これらの三大療法はガンを一旦取り除くことを目的にしていて、自分の免疫力でガンを根本から治すことを目的にはしていない。治療が一段落しても、免疫力が低下しているので、それまでの生き方を根本的に改善しない限り、ガンは再発しやすい。

免疫力アップが決め手

 安保教授らは、「自律神経がバランスよく働いているときは白血球の働きもよく、病気に負けない免疫力を保つことができるが、ストレスによって自律神経の働きが乱れると白血球のバランスもおかしくなり、免疫力が低下してガンを呼び込む体調になる」という原理に基づき、次のような免疫力アップ療法を提唱している。この療法では、交感神経の働きを抑え、副交感神経の働きを活性化して、リンパ球の数値を下げずに、アップすることを狙っている。

ガン予防六ヶ条

@働きすぎをやめ、十分な睡眠をとる A心の悩みを抱えない B腸の働きを高める
C血行をよくする D薬漬けから逃れる Eガン検診は受けない

ガン治療の四ヶ条

@生活パターンを見直す Aガンへの恐怖から逃れる
B免疫を抑制するような治療を受けない(受けている場合はやめる)
C積極的に副交感神経を刺激する
 安保氏は、これを患者に判り易く具体的に次のように説明している。「玄米を主食にして、野菜、魚、納豆などを食べて、深呼吸や体操や入浴などで血行をよくする。あとは鏡を見て一日三回笑うこと。笑顔のおかげで顔色がよくなって、玄米のおかげで便がいい臭いになってくれば、ガンはもう大丈夫ですよ」。
 この療法、特に予防のEと治療のBなどは、まだ様々な議論を呼ぶだろうが、我々の生活習慣を見直し、免疫力を強化するのには大いに有益である。(文芸春秋九月特別号より)